むかし、むかし。
ある山奥に、お爺さんとお婆さんが住んでいた。
とても、とても、仲良く暮らしていた。
お爺さんは、お婆さんに訊く。
「お前は幸せか?」と。
お婆さんは、「ええ幸せですよ」と応えた。
しかし、お爺さんは言う。
「わしゃ、幸せじゃないぞ!」と。
「わしが、幸せじゃないのに、どうして幸せと言える?」
お婆さんは、狼狽え
「それは、知りませんでした。、それでは、私も幸せではありません」と応えた。
すると、お爺さんがさらに訊く。
「それじゃ、お前は幸せか?」と。
お婆さんは、「幸せじゃございません。なぜなら……」と、言いかけたが
「どうして幸せじゃないんだ。ワシがおるというのに!」という
お爺さんの怒鳴り声が遮った。
大きなその怒鳴り声は、大きな黒い鷲となって、大空へ舞いあがった。
黒い鷲は、空を飛ぶ。
やがて、夕立が止むと、突然、世界が、銀色になった。
銀色の世界で、あらゆる感情は閉じこめられ
人々は恐れ、過ちは繰り返され、突如として、妻のデボラが消えた……。
妻のデボラは、いい加減な女だった。
雨上がりの深夜の街に、ハイヒールの音が響く。
1つ、2つ、幾つものヒールの音が、音を重ねて、跳ね回っている。
アスファルトに弾かれた、生まれたばかりの雨粒が
コグマのウォルターの、鼻の先を映した。
2082年、人類の殆どが、昼夜を問わず
野外に出ることのなくなった、ある重大な事件の数年後の話だ。
「待て!」と、言語学者のドミニクが叫んだ。
しかし、青の宮殿のありとあらゆる部分は
「シルクの思い出」を持った
それぞれの新しい世代の子どもたちの、指先へ移っていた。
遠い夜明けが、まるで、寒さを感じる機能を失ったロボットのような
キミ、石川ミライと、僕、柳原セカイが、1つの公園で、1つ街灯の下
失われた、信頼と勇気という名の、古いリズムに乗せた
いまなお新しい鼓動となって、静かに、いつまでも僕らは抱き合った。
ヴォルクフォンの教会が、物音を立てずに、震えた、ように見えた。
「観念せんかい!」と、泉谷は、唾を飛ばす。
泉谷の振り下ろした拳は、古い日記帳のような
開店当時からそのままだという、黒いカバーのディナーメニューを
力強く叩いて、テーブルの下へと飛ばしてしまった。
二宮は、いまも連絡を待っている……。
重ね合わせた両手の指を、たまに動かすことくらいで
二宮は、もう2時間も黙ったままだった。動かない。
電話が……鳴った……。
母親は刑事の顔をいちど見ると、息を整え、受話器を取った。
「娘は……娘はどこにいるんですか?」
犯人の荒い息遣いが聞こえ、やがて、それは言葉へと変わった。
「いまから言うものを、24時間以内に用意しろ。
いいか。
まず、恐れない勇気。
そして、仲間との友情。
最後に、もういちど、勇気だ!
いくぜぇ! お前ら!
……と、水平線の向こうへ向かって、船長が叫ぶと
銀座三丁目の町並みは、大きく変わってしまったかもしれないけれど
変わらないものも、そこに存在すると、三代前から和菓子屋を継ぐ
三橋ルルさんは、笑ってインタビューに応えた。
暑い夏の昼……。
僕の、恋をするスピードが、まだたった、時速7キロメートルくらいの頃。
事件は、いつも放課後に起こっていた。
いや、放課後が、いつも事件に満ちていたのだ。
その日もいつもと同じように、学校を終えた僕は
ピクシーズ・ゲートを抜けて、魔法のもう1つの世界へと遊びに行った。
青い森の向こうの世界……。
そう、若杉百合が、400mハードルを辞退したのには、理由があったのだ。
そんな言葉を残して、バッタのチャーリーは、一生の幕を閉じた。
悲しい、「友を送る歌」の合唱が、城の周りから聞こえてくる。
後の、この世の救世主となる、戦士、ラルフェンが生まれる前の話だ。