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November 01, 2008


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情報量

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昨日のタクシーで。

運転手さんに、「今日はハロウィンで」みたいなことを言われた。
運転手さんは、60過ぎくらいの人だろうか。

乗って、ドアが閉まって、発車していきなりだったこともあり
ずいぶんハイカラな入口だなあ、とは思ったが、「そうですね」と答える。


長くなるので省略するが、こんな感じで話題が推移していった。


「今日はハロウィンだ」

「去年のハロウィンは外人が騒いで大変だった」

「ハロウィンは何故カボチャなんでしょうね」

「最近のカボチャは栗より甘い」

「カボチャが甘くなったのかな」

「いや栗が甘くなくなった」

「岐阜と熊本にそれぞれ娘がいる」

「岐阜の娘からは毎年カボチャが送られてくる」

「熊本に嫁いだ娘からは毎年メロンが送られてくる」

「熊本の娘は優しい娘だ」

「熊本に嫁いだ娘の旦那もいいやつだ」

「送られてくるカボチャもメロンもとても美味しい」

「娘がいる岐阜はこれから寒くなって大変」


といった感じで、話が移っていった。


会話のように見えるかもしれないが、ほとんど運転手さんが1人で喋っている。
ここまでで5分は経っているように思えるが、まだ2分くらいである。

この人にそのまま喋らせたら、1時間くらいで
新書が1冊、出版できそうだ。


正直、ちょっと疲れていた。

運転手さんと会話するのは好きだが、時間あたりの情報量が多すぎる。
そのワリには、得るものが少ない。
少なくとも、運転手さんの娘さんの嫁いだ先の旦那さんの情報は
僕のこの先の人生で、役に立つことはないように思う。


とはいえ、目的地は近く、短距離の移動だったので
このまま、「ふんふん」と、聞いていようと思った。


僕と会話して、なにかが晴れるなら、それでよしだ。
ぜんぜん、会話になってないけど。


もう半分くらいで目的地、というところで

「娘がいる岐阜はこれから寒くなって大変」
から
「私の田舎、山形はもっと大変だけど」

と話が移り、初めて僕がまともに、返事を入れた。


「うちの親父も山形なんですよ」と言うと

「うちは米沢なんですけどね」と返された。

たまたま、数年前に米沢で仕事をしたことがあったので
それを伝えると、その場所のことを運転手さんは、知っていた。


残り1/3くらいで、会話がやっと成り立った。
運転手さんが生まれ育ち、僕が仕事した、米沢という街のことで話が盛り上がる。


信号で停まる。

この信号を曲がって、ちょっとしたら目的地である。

せっかく、米沢のことで会話ができてきたのに……

と思っていたら、突然、運転手さんは、なにかファイルのようなものを取り出した。

赤信号中だからよいが、なにがどうしたというのだ。


青いファイルが開かれると、中に新聞の切り抜きのようなものが入っていた。

「これ、私なんですよ……」と運転手さんは言う。

え? なになに? と思ったところで、信号が青に変わり、ファイルは閉じられた。

が、会話は続けられた。


「私ね、日本記録持ってまして、数年前に日本大会で記録を取って
 実は、一昨年も、パラリンピックに出場して、銀メダルで
 前に入賞したときも、最年長の記録で……昔のオリンピックが……」

「う、運転手さん。残念なんですが、もう、そこで降りるんですよ……」


タクシーは停車し、代金を払い、タクシーを降りる。

人の少ない夜の街に、寒い風が吹く。

ヘビィメタルのCDが、突然止まったような、残された感があった。


最後の15秒くらいは、畳みかけるような、情報の洪水だった。


前半に比べて、時間あたりの情報量も多かったが
前半に比べて、興味ある情報が噴出した。


が、しかし。

あまりにも短時間で、情報を詰め込みすぎているため
いま現在も、あの運転手さんが、なんの競技で、記録を持っているのかわからない。


数年前ということは、いまが65歳として、60歳前後だ。
いったい、なんの競技なのだろう。
オリンピックがどう、とかいう言葉も、後半聞こえた気がするが、なにもわからない。

そして、パラリンピックというのは、身体障害者を対象にした競技大会であると思うが
タクシーの運転手さんをやっているわけで、どういうことなんだろう?
とも思うが、内蔵系の疾患とか、そういうことなんだろうか? とか
とにかく、いろいろなことがわからないまま、終わった。


タクシーは、とっくに、見えないくらい遠くへ走り去っていた……。


結論。


情報を相手に伝えるには、時間あたりの情報量に注意しなければならない。

そうしないと、相手は混乱するだけで、なにも残らない。


熊本に嫁いだ娘さんの旦那さんは、いいやつなんだ、ということは残っている。


だからどうした。


Posted by eno at November 01, 2008 02:09 AM


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