「……わ、わかったから!」と思った。
いくらなんでもしつこいのではないだろうか。
5人に言われたくない。
……いや違う。
右から順に紹介する。
松本(赤い棒を持って制服を着た人)
吉田(方向を指し示すこと、この道15年)
新山(ミスが多いが、働き者)
富岡(親の代からの古株。気は優しい)
矢巻(仕事のしすぎで矢印だけになってしまった)
全員が、さすがに全員は必要ではないと思っているが、言い出せない。
とはいえ、自分から降りるわけにはいかない。
生活とプライドがかかっているのだ。
誰が最初に「去る者」になるか、と全員が感じている。
と同時に、自分の身を心配している。
「必要なし」と思われたら、「負け」となってしまうため
全員、早朝から、現場にやってくる。始発に乗って。
たまたまの偶然で、ほぼ全員が、京浜東北線沿線住まい。
それも、互いのライバル意識を、高めていた。
今日も、早朝から、全員が集まった。
なにもない、静かな路地に。
なにもない、昨日と同じ日が、ただ過ぎていくと思われた……
……が、突然、ひずみが生じる。
松本(一番右)が、つい「疲れたなあ」と呟いてしまったのだ。
プロとしてあるまじき発言。
松本も、すぐに「しまった!」と思ったが、遅かった……。
……去る者が決まった。松本だ……。
吉田が無言で「まわり道」を案内する。
「ここから去れ」という厳しい態度をとる。
すると富岡も「最徐行」と、松本に伝えた。
「ゆっくり行け」と優しいが、「去れ」という真意には変わりない。
新山も慌てて意思表示をしたが、「車両通行止」と間違ってしまった。
が、結果、「車両扱い」という皮肉になった。
そして、矢巻はただ、静かに、矢印を外に向けた。
それが、この写真。松本はただ、佇む。
やがて、ライバルであり、仲間が、1人、去ることになった。
悲しいことであるが、それは彼らの世界の出来事である。
僕らに、投げかけることのできる、言葉なんて、ない。