何度か書いたが
オフィスの近くで大規模な工事が進行中である。
東京の代表的な環状道路、山手通りと、恵比寿を繋げる一大道路開発。
僕のオフィスがある、恵比寿南の静かな雰囲気が
大きく変わってしまうと思われるのは、残念なことであるが、仕方がない。
工事が終わる、来年2月までが、いまの、恵比寿南という街である。
大通りである山手通りからは、茶屋坂という坂が伸びている。
しかし、茶屋坂の上は、恵比寿のガーデンプレイスには、貫通しておらず
くいっと左に曲がって、そのまま駒沢通りへと繋がっている。
それを、直接、結びつけよう、というのが、この工事である。
計画はかなり前から始まっており、新しい道路予定地となる場所に
建っている建物は、すべて立ち退き、撤去され、整備された。
「未来の道路」という、安全柵で囲まれたスペースが広がっている。
その「未来の道路」に、「茶屋坂」と書かれた、バス亭が立っている。
工事以前は、「茶屋坂の上」として機能していた、バス亭が立っているのは
「未来の道路」であり、いまはもう、柵の中だ。
バスが停まることもできないし、誰も乗ることも降りることもできない。
まるで、失われた街の建造物のようだ。
いまはもう動かないその時計のようだ。
だが、視点を変えると、違うようにも見えてくる。
小さな黒い1匹のクモが、古ぼけたバス停の横のフェンスの上を歩いていた。
子クモ「おいバス亭、お前、なんのためにそこにいるんだ?」
バス停「……」
子クモ「おい、バス亭、聞こえないのか?」
バス停「……なんじゃ、騒がしい」
子クモ「もう、バスも停まらないのに、なんでそこにいるんだって聞いてるんだ」
バス停「ほほう。面白いことを言うやつじゃ。ではお前はなんのために存在している?」
子クモ「……ボ、ボクは、生まれたから、ここにいる……に決まってるじゃないか」
バス停「ワシもそうじゃ……。生まれたから、ここにいるのじゃ……」
子クモ「でも、……もう、そこにいる必要はないじゃないか」
バス停「ワシは残念なことに、お前さんのような立派な足がないんじゃよ」
子クモ「じゃあ、動けないからそこにいるだけじゃないか」
バス停「そういうお前は、動けてしまうから、今日の夜には、もうそこにいないのじゃろう」
子クモ「当たりまえだ。こんな工事現場にいたって楽しいことなんてないさ。
昔と違って、このあたりは虫だってぜんぜんいないし……」
バス停「まだ若いのに、知った口をきく、面白いやつじゃな」
子クモ「だから、虫がいっぱいいる森を、探して歩いてるんだよ」
バス停「無駄じゃよ。このあたりはもう、どこも似たようなもんじゃ……。
そうか、だから痩せ細っているんじゃな?」
子クモ「じゃあ、どこへ行けばいいと言うんだよ!」
バス停「……お前は、深い青色をした、綿毛でできたバスを見たことはないか?」
子クモ「あおい……わたげのバス……?」
バス停「それじゃあ、夜の3時にここに来るとよいじゃろう」
子クモ「なんだよそれ……ど、どこに連れてってくれるって言うんだよ」
バス停「お前の望むところじゃよ」
子クモ「し、信じられるか、そんな話」
バス亭「じゃあ、お前はなにを信じているのじゃ?
この目の前に広がる、殺伐とした街を信じているというのか?」
子クモ「ボ、ボクは……」
バス亭「信じられなくてもよい。夜の3時に来て、じっと見つめるのじゃ……
その坂の下から、青いバスが、ふわっと、浮いて現れるのを待つんじゃ」
子クモ「そ、そのバスのために、お前は、いまもここにいるというのか?」
バス亭「そうじゃ。やっとわかったかようじゃの。いまも青いバスは大にぎわいじゃ」
子クモ「み、みんなと一緒にいくのか?」
バス亭「そうじゃない。それぞれの望む場所にいくんじゃ」
子クモ「じゃ、じゃあ、ボクは、虫がいっぱいいる森へ行けるのか?」
バス亭「お前がそう望めば、じゃ。心からそれを望まない限り、現れないがな」
子クモ「ふ……ふんっ、ばかばかしい。ボクはもう行くよ……」
バス亭「ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ。お前は戻ってくる。今日の夜、3時に」
子クモ「ば、ばかな! 勝手なこと言うな!」
バス亭「誰もが持っている、魔法の乗車券を、使うも破るも、その者の勝手じゃ。
じゃがな、信じる心がなければ、望む未来へと運んでくれる
バスは現れないんじゃぞ……」
子クモ「ボ、ボクは、どうしたら……」
バス亭「3時にここにくればよい。それで未来を信じるがよい。
ここは未来へと繋ぐ、「未来の道路」なんじゃ。」
子クモ「ボ、ボクは……」
そして……。
やがて、夜が訪れましたが
大雨が降って、子クモはどこかへ流されてしまいました。(ひでぇ)
次の日曜日に開催される、トークイベント
「気になること。2」、ソールドアウトとなっておりました。
チケット、購入していただいたかた、ありがとうございます。
楽しみに待っていてください!
これから……と、検討されていたかたには、申しわけないです。
また、機会ありましたら、ぜひ。(当日券はございません)
もうあと数日後ですよ。
お楽しみに!!
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