伝えにくい面白さを、blogに書こうと思う。
先日、病院に行った。
先生に診てもらったあと
「血液検査もしてください」ということになった。
初診であるから、データが必要なのだろう。
血液検査の場所は、別の場所にあるという。
大型の総合病院は、そういうスタイルのところが多い。
「採血室」までの行き方が書かれた地図をもらい
それを見ながら、病院内をとことこと歩く。
エスカレーターで降りて、右に曲がって、歩いて……あった!
受付カード、みたいなものを機械から取って
自分の番号を確認して、椅子に座って待つ。
周りをみると、平日の朝、ということもあり
おじいちゃんや、おばあちゃんが多い。
多い、というより、ばっかりだ。
おじいちゃん、とまではいかなくても
もう仕事は引退したんだろうなあと思える歳の人も多い。
僕くらいの年齢は、よく見ると僕くらい。
採血室という名のオープンスペースには
かなりの人が、血を抜かれるのを待っていた。
お年寄りばかりだが、賑やかなくらいだ。
そんな、お年寄り大集合状態の中
近くに、どう考えても、浮いている存在の女性がいた。
空気が違っていたので、僕を注目させた。
ヨーロピアンな顔をした女性。
鼻がピキっと高く、目がパシっと強いながらウロンと垂れている。
20代後半か、30代前半。
彼女の周りだけシネマの空気が流れている。
まるで、単館ロードショウの、スクリーンを見ているよう。
彼女は、採血室の係の人と会話をしていた。
どうやらフランス語のように聞こえる。
僕は、勝手に、彼女のことを、マリヴォンヌと名付けた。
ウィ、ショルジュボー、ノゥノゥ、ベルゥォーン……。
手振り、身振りを交えて。ソフトながらも、一生懸命。
よくこんなに顔が動くなあと思うくらいの、多彩な表情で。
しかし、当たり前だが
採血係の人は、フランス語などわかるわけがない。
困った顔で、手振り、身振りで受け答えている。
受け答える、といっても、いったいなにを答えているのだろう。
しかし、マリヴォンヌは、係員に、会話を積極的に続ける。
係の人は、なにを言っているか、さっぱりわからないだろう。
もちろん、僕もなにを言っているのか、さっぱりわからない。
ノゥノゥ、ジェパァー、ウォフォムエ、メラージュ。
当たり前だが、いくら続けられても、係の人はわからない。
しかし、マリヴォンヌは、気にせず、続ける。
ジェ、ウジェミィーヌ、パラヴゥ、モン、ヴゥー。
会話を聞きながら、係の人は困った表情を返す。
しかし、マリヴォンヌは、フランス語を止めようとしない。
くっくっくっ……。なんだ、これ。
その画が、この空間が、面白くて、面白くて
なんだか、ばかばかしくも思い始めていると、自分の番号が呼ばれた。
なにやってんだ、こいつら。
伝えにくい面白さを、お伝えしました。