悪いなあ、と思う。
昨晩は、家族で食事、の予定だった。
赤ちゃんがいるから、行ける場所も限られる。
だけど、カミさんはずっと家で子育てなので
外に出たい。美味しいものを作るのではなく食べたい。
という、その気持がよくわかる。
しかし、雨が降ってきた。
あらら。
赤ちゃんがいても問題ないところ。
赤ちゃんが眠るバギーが置けるところ。
おっぱいをあげられる場所があるところ。
に加えて、雨でも行けるところ、が条件となった。
ない。
ないということはないが
予定していた選択肢が消え、テンションが落ちる。
カミさんと電話で相談。
こちらはまだオフィス。
「どうしようか?」
「どうしよう?」
の繰り返し。
仕方がないので、オフィスの帰りに
家の近くの総菜屋で、弁当でも買って帰ることを提案する。
「そうだよね、仕方ないよね」
ほんと、悪いなあと思う。
申し訳ないなあと思う。
妻も夫も、同じように大変だが、この時期は圧倒的に女性が大変。
夜中に泣いて起きる。
はい、おっぱい。また、おっぱい。
寝たと思ったら、また泣き叫ぶ。
そして、赤ちゃん連れだから、あまり外に出られない。
そう思って、生まれる前には、海外に行ったり
外食三昧したりと、悔いは残さぬ計画をしたのだが
それでもまだ足りないくらい大変だ。
かわいそうで仕方がない。
お母さんではあるけど、一人の女だからなあ。
一人の人間くらいの欲求は叶えてあげたい。
昔だったら、おばあちゃんが家にいたりして
なんとか解消もできたのだろうが、21世紀の東京核家族。
選択肢は、残念なものだけが残る。
「じゃあ、なにか買ってきて。
ごめんね、仕事の帰りなのに……」
もうたまらなく申し訳ない。
オレ、女を不幸にしてる場合じゃないやんけ!
と、ダッシュで恵比寿三越へ。
寿司じゃあ! 寿司じゃあ! 特上寿司じゃあ!
と、やけくそで寿司を買う。
これとこれ、これも寄こせ!……いや、ください。
タクシー飛ばして、家に帰り、寿司を見せると笑顔になる。
「けしこ堂の杏仁豆腐もあるよー」
カミさんが笑えば、家が明るくなる。
食事を終え、長男と会話。
「お前が小さいときも、こんなにママ、大変だったんだぞ。
感謝しろよ。ママを大事にしろよ。お前が守れよ」
と伝えるが、どこか真剣に聞いてない気がしたので
両手で顔面を掴んで、目と目を5cmくらいまで接近させ、もう1度。
「お前、自分が小さいとき、こんなに大変だったって
いま、わかるだろ? 絶対にママを大切にしろよ!」
お前がもっと大きくなって、自分を育ててくれた感謝を忘れて
調子こいたセリフ、ママに吐いたら
張り倒して、壁に頭ぶつけて、気絶するまで殴るぞ!
「オレの女になにすんだ!」ってことだ。