enoblogbanner2011.png
kenjienotwitter.png


July 26, 2006


linepen.jpg
風に舞いあがるビニールシート

kazemai.jpg

人それぞれの「価値観」を描いた短編の作品である。
ま、連載されていた短編をまとめた小説に対して
無理に全体のテーマを見いだす必要はないのかもしれないけれど。

人は生きる上で、なにかに寄り添って生きている。
寄り添わないと倒れてしまうからだ。
だから、人はそれぞれの「大切な何か」を見つける。
それが、人によってかなり異なるし
人と違う、大切な何かを持っている人間ほど面白い。

「大切な何か」に寄り添って生きているうちに……
時間が経つうちに、それが「信じてる何か」に変わっていく。
それが価値観に直結する人もいれば、間接的に存在させる人もいる。

いずれにせよ、価値観というのは、かなり複雑なものだ。

この短編には様々な価値観が登場する。
価値観はふつう、10人いたら10人異なるわけで
そのうちの2人が出会ったり、一緒に歩んだり、たまたま一緒にいるだけでも
異なる価値観が交差することになる。場合によってはぶつかることも。
さらには、それが何かを生み出すことも。

「ドラマ」を描くという手法ではなく
「人と、その人の大切な何か」に焦点を当てて描かれていることで
独特のリズムと空気が生み出され、こちら側に強く届く。
それぞれは弱いのに、まとまると強く届く。

また、この作品はどれも
「入口」でも「出口」でもなく、「途中」を描いている。
だから、主人公たちを応援したくなるし
悩み、考えながら歩いている主人公たちの言葉や行動に惹かれてしまう。


この本、女性は、読むといいんじゃないかなあ。
特に「大切な何か」が「特定の異性」だけではないという人。
仕事にがんばっている女性や、異性に寄り添いきれない女性
まだまだ人生の「途中」でありたいという女性はぜひ。


……なんて書きながらも、正直に驚いたことを2つ。

実はこの作家のこと、まったく知らずに買った作品であるため
(装丁と、タイトルと、短編であるということと、書店のコメントで購入)
こうやって、blogに書こうとして調べて驚いたことが2つ。
今さっき、この文章を書いていて知ったばかりなんです……。

1つは、女性を描くのがうまい男性作家だと勝手に思いこんでいたら
写真が出てきて女性の作家だと知ったこと。
(「森絵都」という名前で、どうしてそう思ったんだろう?)

もう1つは、買ってから読むまでの間に直木賞を受賞していたこと。
わーそりゃすごい。おめでとうございます。


Posted by eno at July 26, 2006 06:20 PM


そのほかのブログ記事(最新30)