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July 05, 2006


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ストーリー

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先日、人と話す機会があった。
(その人がblogを読む心配を、頭から完全に消去して書きますが)

その人は、映画関係の人なんですが
突然、会話の中で
「飯野さんだったら、どういう映画撮りたいの?
 なにか、撮りたい内容とかある?」と聞かれた。
(そういう話は、たまにあるんですが)

ほんとは、前から撮りたいのがあるんですが
それを気軽にポロっと話すのもどうかと思うし
ヘンに乗ってこられて、勝手に話が動いても困るし
だけど「ないですねぇ」とごまかすのも違うと思い
その場でテキトーなアイデアを考えながら伝えることにした。

「撮るなら、普通の日常がいいんですよね。
 実際、そんな日常でも、凄まじいことが起こっているわけで。
 その位置から、どんどん加速していく感じで。
 あ、短編が撮りたいんです」

「もうストーリーとかはあるの?」

「ストーリーは、その時やればいいんです。
 撮る時期や時代に合わせて、書くべきですから。
 表現したい方向性と、枠は決まっているんですけど」

「どういう感じ?」

「例えば……ですが、主人公がサラリーマンだとします。
 商社に入って4年目くらいですかね。
 『人材がソリューションです』というのが口癖の、3人兄弟の3男。
 アンタッチャブルの細い方みたいなのを想像してください。

 夏の暑い日、大手町の会社に先輩とハードな営業に行った帰り
 そのまま朝まで飲んじゃう。次の日休みなんで、まぁいいやと。
 朝になって、いい気分になったんで、先輩と別れた後
 タクシーで帰ろうとするんです。
 友達からもらったタクシーチケット、まだあったし……と。

 こんなとこに飲み屋あるんかい? といったビジネス街の
 ビルから出てきて、道路際でキョロキョロとタクシーを探します。
 が、土曜の早朝ですから、外はがらーんとした感じで。
 雀なんかもチュンチュン鳴いてて」
(……やべぇ、ストーリー語り始めてる、オレ……)

「ほう。日常から入ってますねえ」

「すると、誰もいない道路の向こうから
 ねずみ色のタクシーが、猛スピードで向かってくるんですよ」

「それはすごいね!」

「主人公が手を挙げてもいないのに、勝手に向かってくる。
 猛スピード。周りを見る主人公。だけど、誰もいない。雀のみ。
 主人公の目の前まで、ギューンと来て、ぎりぎりストップ。
 雀も飛んで逃げる!
 ジョン・ウーみたいな演出ですね。スローで。雀なんですが。

 で、勝手に後部座席のドアが開くんです。
 バ・タン…と。
 突然の出来事に、不思議に思うも、まぁいいやと
 まだ酒が残ったボケボケした頭で、主人公、ドアから、シートに座ろうとします。
 すると!
 奥の座席に、アンジェラ・アキが座ってて、焼きそばを食べているんです!」

「アンジェラ・アキ!」

「アンジェラ・アキが、ものすごい勢いで
 透明のプラスチックに入った、持ち帰り用の焼きそばを
 ズバババ、ズバババと食べているんです」
(……やべぇ、乗ってきた……どこまでいくんだろ、これ……)

「なんで焼きそばを、また?」

「腹が減っているからです。
 冬眠でもないのに、腹がいっぱいで食事をするのは、人間特有の行為ですが
 この場合、本気で腹が減っているんです。
 ……で、主人公、シートに座ろうとしたのは、いいんですけど
 シートの奥で、焼きそば食べてる、女の存在にびっくりするわけです。
 頭、ゴチーン、なんてぶつけて。
 でも、既に乗客が、そこにいるのもおかしいんで、降りようとします。
 すると、アンジェラ・アキが言うんです。
 『マテ〜ヨ』と」

「マテ〜ヨ(マネして笑う)」

「マテーヨと言われ、主人公が奥のシートを見ると
 アンジェラは、焼きそばをシートに置いて、ピストルの銃口を向けてくる。突然。
 主人公は、あわわわわ…と驚いて、また、同じとこに頭をぶつけたりします。
 で、頭イテテ……、なんてやってるうちに、ドアが「バン!」と閉まります。
 アンジェラ・アキの運転手に対する、『イケ〜ヨ』という言葉で」

「なんでまた、ピストルを?」
(……「イケーヨ」とは言わないのか……)

「アンジェラ・アキは逃走しているのです。
 ある場所まで、急いで逃げなければならない。
 それでタクシーをまず、ジャックした。
 が、そのタクシーの運転手は、青森の八戸出身で、その日が初めての出勤日。
 だから、道がさっぱりわからないんです。
 しかも、初めての客だったりしたもんだから、まだ金も全然持ってない。
 長距離の高速すら乗れないかもしれない。
 それで、主人公を捕まえることにしたんです。

 あ、ここ、そのシーンは回想で入ります、このタイミングで。
 回想は白黒のアニメーションです。
 アンジェラ・ミーツ・タクシードライバー。
 初めての客だから、もう嬉しくて嬉しくて、ニコニコ笑顔でアンジェラを乗せます。
 キャンディー、薦めたりして。
 ……あ、そのキャンディだけ色が付いていて、赤いんです……」
(……なに、言ってんだ、オレ……)

「で、どうなっていくんですか?」

「アンジェラには逃走する理由があったんです。
 それが、早朝の道路を爆走する、タクシーの中の会話でだんだんとわかっていきます。
 ま、ロードムービー的な展開ですね。
 実際、ロードの上を走っているわけですし。
 主人公は、それをふんふんと聞いている。聞き続ける。
 巻き込まれたのを、もう諦めている様子で。ネクタイなんかもゆるめちゃって。
 そのアンジェラの話の核が、自分の幼少期のトラウマに重なったりして
 そういうこともあって、ふんふんと聞いています。
 アンジェラも誰かに伝えたい様子で」
(……どこに転ぶんだ? この話の展開……)

「どういう背景があったんですか?」

「それがですね、実は、運転手も関係しているんです。
 それが、アンジェラの会話でわかるんです。
 そこから、ドラマが始まっていくんです。
 それまでは、アンジェラに脅されて、仕方なく運転していた運転手ですが
 主人公とアンジェラの会話から、気になる単語が出てくる」

「それは?」

「『ジャズ』と『ブルーベリー』。
 八戸はブルーベリーの産地ですから。ジャズも有名です。
 もうこの映画のタイトル『ブルーベリージャズ』でもいいくらいです。
 あ、『ジャズとブルーベリー』のほうがいいですね。
 アンジェラは、まだライブ歌手の駆け出し、みたいな感じなんですが
 母が、ジャズのシンガーなんです。ステージ中に何者かに銃殺されています。
 父はアメリカ人で、オレゴン出身。ブルーベリー農園を営んでいたんです」

「それが、運転手とどう絡むんですか?」

「ここではまだ、観客にわかりません。
(……オレも、まだわかりません……)
 だけど、運転手は、主人公とアンジェラの会話を聞いていて、気付くんです。
 自分が家族を捨て、八戸を追われた理由。それとの密接な関係に。

 サービスエリアで、主人公は、追加の焼きそばの買い出しに行かされます。
 強い日差しの中、大盛りを3つ買って、戻ってきて、サービスエリアを出発する。
 再度、高速に入って、ドライブが始まった時……。
 そこから、ゆっくりと、立場が逆転していくんです。

 まず、いきなり運転手がカーステレオをガンガン鳴らす。
 それをアンジェラが「ルセーンダヨ!」と怒り、焼きそばを投げつけると
 運転中なのに、運転手が振り返る。
 頭から顔から肩まで、焼きそばが乗ってます。
 エクステンションみたいな感じです。
 運転手はニヤっと笑い「この曲……、このジャズの曲、お母さんの持ち歌だったよな?
 『サマー・ブルドッグ』……いい歌だ」とアンジェラに訊く……」
(……あ、ブルーベリーが不作の年があって……っていう設定にしよう……)

……と、こんな感じで10分くらい。

「それ、まとめてよ!」と興奮して言うかと思ったら

「そうやって、デタラメな話、急に作れるんですか……?」


Posted by eno at July 05, 2006 03:24 AM


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