最近、仕事の関係で代官山に行くことが多い。
代官山という地名を初めて意識したのは
いつの頃だったか覚えていないが
恵比寿で独り暮らしを始めたとき「この駒沢通りを進むと代官山に行くのか!」と
微妙に興奮したことを覚えているから、20年くらい前の自分にとってすでに
代官山というのは、特別な場所だったわけだ。
その当時、代官山のあちこちの店に行っていたが
なんといっても、代官山といえば、ヒルサイドテラスだった。
いや、いまも自分にとって代官山というのはヒルサイドテラスのままだ。
代官山と聞いて思い浮かぶのは、旧山手通りの道であって
八幡通りの道ではない。
ヒルサイド=旧山手通りにある、小物屋さんなどにもよく行ったが
僕にとっては「トムスサンドウィッチ」の存在がなにより大きい。
20年くらい前に、最初に行って食べたとき
「サンドウィッチ」の概念を壊されて驚いたが
なにより、サンドウィッチ+ドリンクを2人で頼むと
支払いが5000円くらいになるということに衝撃を受けた。
いまでは、拘りのハンバーガーに1500円払うことはあるが
当時としては、サンドウィッチに1500円払うというのは衝撃だった。
それは単に「サンドウィッチ=いって500円くらい」という
自分の感覚としての、プライス設定との「ずれ」による衝撃だ。
サンドウィッチに1500円というのは抵抗があっても
美味しいパスタに1500円払うことはできるというのはおかしな話である。
......なんてことを考えたりしながら、よく通っていた。
最後に行ったのは、いつだろう、とよく覚えていないが
若い頃は、なんども行った店だった。
先日、ヒルサイドテラスの朝倉さんとお会いする機会があった。
ヒルサイドテラスというのは、その施主である朝倉家と
建築家である槇文彦が、30年以上かけて創り上げた「街」である。
いまでも古びない、素晴らしい街作りであり、デザインだ。
若い頃、憧れて通ったあの場所の持ち主さんである
朝倉さんとお会いするというのは、なんとも独特の感覚があった。
2日連続してお会いする機会があり、お話もさせていただいたが
個人的な会話ができたのは、2日目の最後、朝倉さんが帰るときだった。
「なにを言おう?」「なんか言おう」と、しばらく考えて口から出たのは
「トムスサンドウィッチ、20年くらい前からお世話になっています」だった。
あぁ、僕にとって代官山というのは
ほんとに「トムスサンドウィッチ」なんだなあと心から思った。
朝倉さんは「そりゃどうも」という、対応に困った笑顔をされて帰っていった。
僕も「そりゃそうだよなあ」と思いながら、代官山の街を想った。