さて、「『きみとぼくと立体。』の設計」の、第二回です。
今回は、『きみとぼくと立体。』の「サウンド」について、書きたいと思います。
サウンドの設計のお話です。
僕は、いつもサウンドには拘っていて
2作に1作は、自分で作曲、編曲もしたりするのですが
(今作はサウンドの組み込み以外は、効果音まで作っております)
いつもいつもできなかったことがありまして
『きみとぼくと立体。』では、初めてそこにチャレンジしてみました。
それは、「プレイヤーが創り上げるサウンド」です。
昔の家庭用ゲームでは、拘っていたと言っても
曲や、サウンドデザインなど、「音」そのものを拘っていただけでした。
(自分が作曲するしないに関わらず)
ゲームというインタラクティブメディアにおける
サウンドデザインということに、初めてここまで真剣に挑戦した作品です。
1つは、ゲームの展開に合わせた、サウンドデザインです。
このゲームでも、通常のゲームと同じように、BGMというものがあります。
BGMというのは、感情を左右するために存在します。
それは映画でも同じなわけですが。
画面から伝わる表現以上に、嬉しい気持ちにさせたり
悲しい気持ちにさせたり、焦らせたり、ほっとさせてみたり。
映画であれば、どのシーンにこの曲を、というのが
ぴったり当てられるのでよいのですが、ゲームではそれができません。
どうなるか、というのが、決まっているわけではないですから。
もちろん、通常のゲームでも、残り時間が少なくなったら曲が変わったり
昔のゲームでも、無敵状態になったら曲が変わるなどありますが
曲が「変わる」というのではなく、展開するように考えました。
曲が変わる、という効果は、ある意味、効果音のように思えます。
しかし、このゲームでは、そこまでの明確な伝え方をしたくなかったのです。
「いまピンチですよー!」とか「このままだとヤバいですよー!」とか。
なぜなら、そうしてしまうと、明確な展開のゲームになってしまうからです。
サウンドというものは恐ろしいものです。
そこまで強くプレイヤーにアテンションしてしまいます。
このゲームでは、全体を、そういったカチっと明確なものにしたくなかった。
もっと自然で、アナログ感覚のある、ゲーミングにしたかったのです。
まず、ゲームがスタートすると、画面に、舞台となる、キューブが現れます。
あまり気付かないかもしれませんが、その時点で、BGMはスタートしています。
ノイズのような音が既にリズムを取っているのです。
そこに、プレイヤーが初めてキャラクターである、ニンゲを投げ入れると
最初から鳴っているリズムに合わせて、曲が展開します。
プレイヤーが失敗して、キューブ上のニンゲがいなくなると
当然のように、またリズムだけになります。
(このシーンとした感じは、かなり大きな効果になっていると思います)
同様に、ゲームが進行、展開して
舞台であるキューブが、ある程度以上に傾いてしまったり
残り時間が少なくなったりすると、それぞれに対応したトラック(音楽)が
その上に被さっていきます。
決して、曲全体が変わったり、異なるリズムで鳴ったりはせずに。
そのようにして、ベースとなるリズムのトラックに
ゲームの展開に応じて、トラックが足されたり、引かれたりして
ゲーム全体のBGMを作り上げています。
はっきりと「曲が変わる」、というような感じではありませんので
プレイヤーの心理に影響するようなものです。
僕の狙いは、「気付かず」に「感じて」もらえれば、というものでした。
明確に認識できなくても、プレイに影響してくれればということです。
そして、まだいくつかあるのですが、もう1つ。
実は、このゲーム、BGMと効果音がシンクロしているんです。
(シンクロしてしまったらおかしい効果音は除いて)
ちょっとした工夫で、BGMの持っているリズムと
効果音が、ずれたタイミングで鳴らないようにしています。
ですから、ゲームをしていない人が横で聞いていたら
パーカッションのように、或いは、BGMの持つエフェクトのように
聞こえるのではないかと思います。
そこに拘って設計したおかげで、「気持ちいい」ものにサウンド全体がなりました。
プレイしていただけた人は、「なんか音が気持ちいい」と
感じてくれたのではないかと思います。
また、シンクロと書きましたが、それはタイミングだけのことで
効果音の意図(危ないと思わせるとか、嬉しいと感じさせるとかなど)によって
BGMの持っている、曲のスケールと、効果音のスケールを合わせたり、ずらしたり
また、メインで使っている周波数帯域をそれぞれ分けて表現しています。
(それで、メインのBGMは、あんな感じのサウンド構成なんです。
効果音用に、空けている部分がある、といいますか)
と、ここまで書きましたが、こちらも前回の「感覚」と同様
気付いていただけなくてもよいものです。
感じてもらえれば。という設計です。
ですが、サウンドが好きな方や、サウンドをやられている方は
このあたりの設計意図を知っていただいた上で、プレイしていただければ
「なるほどそういうことか」と感じてくれるのではないかと思います。
次回は、第三回、「2人プレイ〜協力と対戦」について、書きたいと思います。
『きみとぼくと立体。』の楽曲が、本日、iTunesでリリースです!
シングルで2曲。
僕がすごく好きなタイトルの曲、「立体の上で」と
メインの選択できるBGMから1曲、「ぼくと境界」です。
ゲームでは、上記のような、展開させるサウンド、ということもあり
すべて、曲をただ流しているわけではなく、ストリーミングではなく
Wiiの本体でプログラマブルに鳴らしているわけですが
こちらは......原曲とでもいえばよいのかな。より楽曲として仕上がっております。
ゲームでは、ゆっくり聴いている余裕はないでしょうし
ほとんど曲の前半で次、となってしまうため
しっかりと楽曲のみを楽しむことは、できませんが
『きみとぼくと立体。』をプレイするなり、ウェブで見るなりして
「サウンドがいいなあ」と思っていただいた方は、ぜひ聴いてみてください。
iTunesを開いて、iTunes Storeへ行き、右上の「iTunes Store を検索」で
「きみとぼくと立体」或いは「Kenji Eno」を検索していただくか
下をクリックしていただければ、iTunesのページが開きます。
<<iTunes Storeの『きみとぼくと立体。』のページにジャンプします>>
試聴もできます。
これで、『きみとぼくと立体。』の世界を連れ出すことができます。
楽しんでください!