ある日。
ある夕方。
家を出て、しばらく歩いてみると
なぜか、どこにも、誰もいない。
街から人がいなくなっている。
どのビルも電気が消え
どの家からも灯りが見えない。
誰に電話をかけても、出ることはなく
誰にメールを打っても、返信はない。
街を走り回る。
息が切れる。
空を見上げても、鳥は飛んでおらず
犬の鳴き声も、聞こえない。
公園。
コンビニ。
駅前。
テニスコート。
どこにも、誰も人はおらず
風すら吹いていない。
やがて、だんだんと暗くなっていく。
街が、この世界が、消えていくかのように暗くなる。
遠くに、1つ街灯が見えた。
近づいていく。
この、なにもが、沈黙してしまった世界で
ありふれた、なんの変哲もない、交差点に立つ
1つの街灯だけが、明るく、輝いている。
真下に立ち、見上げると
太陽のような眩しさを感じた。
最後に残った、希望のようにも思えるそれを
消えることがないよう、と、祈りながら
やがて、疲れて、よりかかり
そのまま、冷たいアスファルトの上に座り込んだ。
長い間、寝てしまったのだろう。
朝になっていた。
太陽の光と熱を感じる。
風を感じる。
ゆっくり、目を開けると
そこには、いつもと変わらない世界があった。
街灯にもたれ、しゃがみ込んだまま。
目の前を、車が通りすぎていき
遠くから、自転車のブレーキの音が聞こえる。
横断歩道の向こうには、信号を待つ、お母さんと娘の姿が見えた。
頭上、遙か遠くに飛ぶ、飛行機のシルエット。
首を下げて足下を見ると
小さなピンク色の花が、ぽつんぽつんと咲いていた。
ありふれた世界。
昨日まで住んでいた、そして、いま生きているこの世界は
なんて、賑やかで、鮮やかで、素敵な世界なんだろう。
風邪をひいてしまった子どもが
健康な日々のありがたさを知るように
自分が暮らす、この世界の、無限にも思える広がりを感じる。
立ち上がって深呼吸をすると、世界が自分の中に溶けていくように思えた。
友達の声が聞こえた。