いやー面白かった。
ものすごく満足した。世界に浸ってました完全に。
前から気になりつつ、今ごろになって読んだわけですが。
とても美しく、瑞々しく、清々しく、暖かく、希望のある作品。
といっても、以前何度かこのblogでオススメしました
伊坂幸太郎さんの作品のような、エンタメ方向の小説ではありませんので
「伊坂が面白かったから、こっちも買おう」とか思うと
好き嫌いあると思いますので、ご注意を。
といいつつ、小説が嫌いでない人なら皆に読んでもらいたいくらいの作品。
母と二人暮らしの中学校1年生の主人公、朋子が、家の事情で東京の洋裁学校に
通うことになったため、芦屋の伯母さんの家に預けられるという
その「家」での、1年間を描いたお話。舞台は1972年。
お世話になる芦屋のその家は、山の上に建っている洋館だったりして
伯父さんは清涼飲料水の会社の社長だったり、おばあさんがドイツ人だったり
お手伝いさんや庭師の方がいたりと、主人公は「昨日までの生活」と
「今日から1年間の生活」が、変わることになる。
それまでには体験したことのない生活の輪、家族の輪に入っていくことになる主人公。
そんなドキドキの毎日が、主人公に近い1つ年下の娘、ミーナとの交流を中心に描かれる。
これから読まれる方にもったいないんで、あまり書かないことにしますが
上のプロットだけだと、あまり面白い感じがしないんで、ちょっとだけ。
その家の娘、ミーナは「マッチ箱」を集めるのが趣味なんですが
ただ集めているわけではなく、マッチの箱の図柄から「物語」を作り出す。
ぜんそく持ちで、身体も弱く、自分の足で外へ出かけることもままならないミーナが
巧みな想像力で、マッチ箱の図柄から創造する、自分だけの「世界」。
その世界を、主人公、朋子に伝えることで、共有していく。世界が広がる。
マッチ箱の図柄〜
シーソーに乗ったゾウの物語。
三日月と二匹のタツノオトシゴの物語。
ガラス瓶に流れ星を集める少女の物語。
キャー! もうステキー!!
ステキすぎる。鼻血ブーと出る! 春巻き1本おかわり!
だめだ、興奮してしまった。
ちゃんと書こう。
そんなステキが、散りばめられた作品なんで
そういうとこだけで、もう買って&読んでいただければ充分なんですが
世界の構築がすごいわけです。
基本的には、伯母さんの「家」という、閉ざされた世界でのお話なんで
完全に閉ざされている世界で話は進む。なのに清々しい。どこも息苦しくない。
その家にいるミーナは病弱で、その世界はさらに閉ざされている。
そのミーナが描くマッチ箱の世界は、本来、さらに小さい構造になるんだけど
その創造性によって、この宇宙のどこへとも繋がっている。広がっている。
そこに、主人公である朋子が別の世界からやってくる、という構造。
さらには、回想という形式も含めての時間軸の世界構造。
主人公とミーナのそれまで過ごした時間と、出会ってからの時間。
1年間という限定された時間での2人の成長。
そして、そこから解放された未来である、今。
生活や文化なども含めた空間軸と、時間軸のそれぞれ世界の構造が見事で
空間と時間の、いずれも限定された、閉ざされたものなのに、広がりを持っている。
まあ見事。
みなさんも、ぜひステキ世界へ、どうぞ。
先日、伊藤たかみさんの『八月の路上に捨てる』を有隣堂に買いに行ったら
どこにもなく、探すと「女性作家」のコーナーに置いてあった。
「伊藤たかみ」という名が紛らわしいのだろうか。芥川賞までとったのに。