最近、音楽についての話題が少ないのと
意外にも、オススメアーティストや楽曲的なリクエストも多いので
最近のお気に入りを、レコメンドします。
アーティストや背景についての説明は基本的に省略しました。
興味を持ったかたは、検索して調べてください。
また、紹介するアーティスト、アルバム、楽曲に関しては
iTunesで、試聴ができるものに限りましたので
このblogを読みながら、iTunesで検索して、ぜひ、試聴してみてください。
気にいれば、すぐ購入できる、というスタイルがいいなと。
では、まず、ちょっとカワイイ系から。
ご存じのかたもいらっしゃると思いますが
「Matmos」の、新しいアルバム、「Supreme Ballon」。
もともと、ヘンタイ的なサウンドでしたし、いまもヘンタイ的ですが
今回のアルバムは、ずいぶんカワイイ感じになりました。
カワイイ、ヘンタイ系、エレクトロニカ。
ふわふわ。もう気持ちよくて仕方がない。
古くから、テクノ・エレクトロニカとしての、この手の音はありましたが
ここまでのクオリティと世界観は、僕には初めて。
続いて、「Pendulum」の、こちらも新作アルバム「In Silico」。
もうこれはたまらない。倒れた。
Matmosとぜんぜん違う、ヘビィな方向に行きますが。
もともと、「Granite」という曲がシングルで出ていて
好きで好きで、ずっと聴いていて、DJでかけていたりもしたのですが
アルバムが出て、喜んで聴いて、良くて倒れました。
メジャー第一弾アルバムなんだよね、これ。
聴いてもらえば一発なのですが
もうなんというか、ハイパー・フューチャー・バンドサウンド。
ロックとドラムンベースとブレイクビーツとテクノとレイブの融合。
同じ階層にないものを混ぜちゃってますが、そのくらい凄い。
ライブではまた全然違って、アツい感じなのですが
アルバムの、ぶっとんでるけど、クールな世界が素晴らしい。
音圧が凄い。たまらない。
この方面が好きな人は、目が覚めると思います。
そのくらいの決定打じゃないですかね。
とにかく、まず、「Granite」聴いていただきたい。
次は、「JDSY」の、「Adage of Known」。
美しいエレクトロニカが好きだし、ホワーンと浮かぶのが好きだけど
いつも、どこかで、ハードなエレクトロニカを求めていて
「そう、これが欲しかったんだ!」というアルバム。
過激なぶっこわれかたと、美しさが融合する方向の音楽って
どうしても、ダークで元気がない感じになっちゃうんだけど
ものすごく元気な、美しいぶっこわれ。
病的じゃないんだよね。すごく元気。
ところで、JDSYって、いまのところ
誰に対して話題にしても、「?」と言われてしまうこと続き。
好きな人見つけて、盛り上がりたいんだけど、盛り上がれず。
ということもあって、紹介しました。
あとは、ちょろちょろっと。
「Owl City」の「Maybe I'm Dreaming」に、少しずつハマり始める。
ピコピコだけど爽やかな、エレポップ。
オーガニックなファストフード。現代のドライブミュージック。
ポップな音楽が好きな人はぜひ。
ていうか、ここまでレコメンドしてるものの方向性、バラバラだな。
あと、いまになって「Telefon Tel Aviv」の、2ndにハマる。
アーバンで、私的で、インドアな湿度がすごくいい。
アスファルトなロマンチック。
ほかには、「Midnight Juggernauts」に、シビれ中。
「nortec collective」のサウンドが、何故だかわからず好き。
といった、ところでしょうか、最近は。
いやー、音楽っていいですねー。
ぜひ、試聴してみてください。
ハマるのあったら、良い週末で。
友人の、西健一が、痛風になったそうだ。
痛くて動けなくて大変とのこと。
食事も制限されてしまっている。
可愛そうで仕方がない。
なんて思っていると、こちらがお腹すいてきた。
音楽仕事を続けていて、夕食を忘れていた。
よし!
ここは、大切な友人のかたきをとってやる、と
美味しいラーメンを、精一杯、食べに行くと決めた。
オフィスを出る。
自転車を転がして、ツツツーと走る。
雨の後。
夜の街、風が気持ちいい。
自転車のタイヤが、濡れたアスファルトに絡んで
エレクトロニカみたいな音がする。
恵比寿のオフィスからは、どこへ向かっても、坂を下ることとなる。
ペダルは漕がずとも、スピードがどんどん上がっていく。
あまりにも気持ちがよくて、広尾の商店街まで滑り込む。
のんびりしている場合でもないので、明治通りを渋谷方面へ。
どこで食べようか悩んだが、せっかくならと、久しぶりの一風堂。
痛風で苦しんでいる、友人のことを思えば
魚介系とか、あっさり醤油とか、言ってられない。
それでは、敵討ちにならない。
ここは、ガツンと豚骨ラーメンなのだ。
と、久しぶりの一風堂。
メニューを見ると、新しいラーメン。
もう、ずいぶん前からあるのかもしれないけれど。
からか麺!
辛い豚骨ラーメン、「からか麺」なるものがあるではないか。
しかし、悩む。
辛いラーメンは、もちろん、美味しいところも多いが
辛いというだけで、それなりに美味しくなってしまう。
味噌ラーメンも、ある意味似ている。
そもそも、古くからあるラーメン屋の
新規開拓メニューは、あまり好きではないことが多い。
一風堂だって、元々からある、白丸が好きなのだ。
とはいえ、ここは友人の敵討ち。
豚骨+辛みなら、もう勝ったも同然だ。
定番の一口餃子と
からか麺を、かためで頼んで
待つこと、少々。
来た。
うっ!
こりゃ、うまい!
いわゆる辛いラーメンであるし、辛いラーメンの範囲内テイストではあるが
これは美味しい。かために麺を頼んで正解だった。
痛風に苦しんでいる、大切な友人のことを思うと
よけいに美味しく感じられる。
夜の風の中
自転車を軽快に漕いで
一風堂に行ったら
新しいメニューがあって
それが、食べたら美味しくて……。
もう……っ!
というような気持ちである。
音楽が好きである。
聴くのも好きだが、作るのが好きだ。
とはいえ、仕事もあれば、家庭もあるので
好きで音楽を作る機会というのは、あまりない。
だから、仕事で音楽が作れるとなると
これは、もう、ありがたい。たまらない。
このところ、ずっと音楽ばかり作っている。
このところっていっても、1週間くらいだけど。
自分のプロジェクト用の作曲。
人に曲を書くことは、なんどもあったが
自分用というのは、かなり久しぶりではないだろうか。
なのに。
連続してやってたら、疲れてきた。
贅沢なものである。
しかし、音楽が好きだ。
明日までには上げようと思っている曲があって
うわー、明日までには作らないと……というプレッシャーもあるのに
うわー、明日まで音楽作れるのかー、という喜びもある。
なんだろうなあ。これ。
今回のは、作品的にリズムメインの曲ばかりなんだけど
というか、リズムメインの曲ばかりだから、きっと思うんだけど
メロディとコードがあるような、曲も作りたいなあ。
ピアノの曲とか作りたい。
ずっと書いてないけど、オーケストラの曲が書きたい。
という思いって、振れ幅なんだろうなあ。
オーケストラの曲を、ずっと書いて書いて書き続けていたら
リズムの打ち込み、やりたいなあと思うのだろう。
さて。切り替えて続けよう。
いま、音楽が作れることに感謝しよう。
ありがたい。
お腹もすいた。
国語の勉強を一緒にした。
文章問題。
間違っている、合っているだけではなく
わからないとき、ヒントやナビゲーションをしながら
息子の理解力や、得意不得意を理解して
先に活かそうということ。
やっとのことで終わる。
キリンカップのキックオフまでは、まだ時間がある。
「ふぅ」と、ソファーに座ると
「社会を手伝ってほしい」と言われる。
社会は、一人で勉強しても
あまり効率、効果がよろしくないという。
たしかに。
いま勉強しているのは、日本の国土についてだが
問題集みたいなのをやって、解けてしまったらそれまでだし
解けなくても、答えをみれば、あぁそうだったか、くらいのもの。
問題をいろんな言い回しで、いろんな方向から尋ねて
それで、ぜんぶ答えられたら、安心できるというものだ。
その役に、僕が必要であるという。
了解する。
キリンカップの前半を諦める。
一緒に、テキストを開く。
息子が回答を言って、僕が正解、不正解をチェックして
さらに、知識を1つ奥に加えていく。
例えば、「シラス台地」というのは、「白砂」と書くとか。
なぜ白砂かというと、火山から噴出したものが堆積したからだ、とか。
「あー、だから鹿児島にあるんだー」とか、そういうこと。
そうやって立体的に知識を構築すると、忘れにくい。
頭にイメージができる画的なことをなるべく加えてやる。
こっちが何十年もかけて積んできたノウハウを、フル活用。
そして、なにより、どのへんが不得意かを見抜いて
テキストが終わったら、僕が問題をアレンジして、答えさせる。
息子は、いままでの勉強で、それが役に立ったらしく
その効果から、一緒に勉強を依頼してきたようだ。
まるで、仕事の効果が高かったから
クライアントから、再度、仕事の依頼があったような感じ。
聞こえない、キックオフの笛を聞きながら、社会をスタートする。
しかし、いきなり躓く。
子も親も。
僕がテキストを読む。
「日本の海岸線の長さは、約?kmである。わかるか?」
「えーと……」
「あのさ、実はオレ、わからない……」
「えー?」
「知るか、そんなもん」
答え、「約3万4000km」
親子で「へぇー」
次の問題。
「日本にある島の数は、約?千である」
「えーと……」
「これは、オレ知ってる……と思う」
「え、いくつあるの?」
「たしか約6千じゃなかったっけ?」
答え、「約7千」
「……あれ? たしか、約6千って……。
あ、増えたんだよ、きっと。太陽系の惑星の数が変わったように
「島」と認める基準が変わったんだ。そうだ。そうだ」
そんな調子。
ナントカ山脈とか、ナニナニ川とか、ナントカ半島とか
そういうのは、知っていることも多いが
日頃、使わない知識は、さっぱりわからない。
ちょっと難しいクイズをやっているかのようである。
しばらく、勉強を続けて、テキストをパタンと閉じる。
ソファに座り、リモコンでテレビの電源を入れると
後半のホイッスルが吹かれたところだった。
1−0。
前半で1点入れたようだ。
得点シーンは失ったが
海岸線の長さと、日本の島の数を学習した。
父子で、後半45分、思い切り、日本代表を応援した。
やっぱ、サッカーのほうが面白いな。
なあ、息子よ。
息子が1歳になった。
37歳が、38歳になったのとはずいぶん違って
生まれてきた子が、1歳を迎えたというのは喜ばしい。
彼にとって、この世界は、まだたった1年なのだ。
子どもってなんだろう、と思う。
父親ってなんだろう、と思う。
よく考え込んでしまう。
僕は父親であるが、産んだわけではない。
産んだのはカミさんだし、四六時中一緒にいるのもカミさんだ。
たまにつらくなる。
カミさんが、なにかの用事で離れたとき。
僕は息子を抱いていると、息子はカミさんがいないことに気付く。
すると泣く。
「ママー! ママー!」と大泣きする。
僕の腕から離れ、カミさんを、ママを、必死で探そうとする。
ママがいないことに気付いて、本気で焦っている。
僕の腕なんかに、いる場合じゃないのだ。
探したところで、いないわけだし
勝手にふらふらしててはあぶないので
腕から滑り落ちそうになっている息子をさらに抱き寄せる。
すると、さらに泣く。
「ママー! ママァー!!」と泣き叫ぶ。
「ママはいないけど、パパはいるよ」と言っても
通じるわけがないどころか、聞いてもいない。
息子は、ママがいなくなった、という一大事に
パニックになっている。ママがいないと困るのだ。
自分のもっとも大事な、唯一の味方であるママがいない。
近くに、誰かがいるけど、そんなのどうでもいい。
泣いて、泣いて、喉をからしても、まだ泣き続ける。
この世が、終わってしまうかのように、全身で泣く。
涙が溢れ、流れ、顔が赤くなり、喉がかれて声が出なくなる。
「マァアアア!」と、それでも叫ぶ。
全身で、つらいと、悲しいと、表現する。
「ごめんな。ごめんな。ママいまいなくてごめんな」
苦しくなる。
小さい子の面倒を見るのは、ほんとうに大変なことだけど
ママっていいなあ、と、思ってしまう。
パパもいいこと、いっぱいあるから、ママもいいことあって当然だけど。
男と女って、同じ人間だから、普段、あまり感じないけど
早い話が、本来は、ぜんぜん違う、生き物なんだなあと思う。
1歳、おめでとう!
もうちょっとでいいから、パパのことも好きになってほしいな。
下の子が、明日で1歳になる。
だいたい、この歳になると、たいがい時間が経つのは早くて
「あれっ? もう半年?」とか「もう1年経つの?」なんていう調子だが
下の子に関しては、「まぁ1年くらいかなあ」と思える。
密度がそれなりに濃かったのだろうか。
1年前を思い出す。
医者からは「ゴールデンウィーク頃に生まれる……かも」
という、微妙な情報をもらっていたので
勝手にゴールデンウィーク頃に生まれると思っていた。
信じてた。
しかし、まったく生まれず。
ゴールデンウィークは過ぎ、翌週もあっさりと過ぎ
やがて、5月も後半に近づいてしまう。
「ゴールデンウィーク頃」と言われていたので、少し焦ってくる。
台風の影響で電車が遅れるのとは、ちょっと違う。
カミさんは、焦りすぎて、お腹がちょっと痛くなったくらいで
「生まれるかも!」と、勝手に生まれる宣言をし
長男と一緒に病院へ行くも、「なんでもなかった」なんてことがあった。
看護婦さんが「ぷぷぷっ」と含み笑いしているように見えた。
当たり前だが、「生まれる」にスケジュールはない。
そんな当たり前のことを、なるほどなあと思っていた。
病院入りから同行して、立ち会うため
スケジュールは、スパーっとあけていたのだが
まさか、5月の後半までになるとは思わず
1つだけ、どうしてもと、入っていた予定があった。
それが、more treesの立ち上げとも言える
Super Deluxeのイベント、5月18日。
5月18日が近づくにつれ、早よ生まれろ、生まれろと気が焦る。
5月18日に生まれては困るのだ。
僕は、そのイベントに出演するのだ。
しかも、ケータイの通じない、地下の会場なのだ。
と、いくら焦っても、赤ちゃんは焦ってくれず、5月18日が迫る。
イベントの関係者、出演者のみなさんに
「もし、生まれそう! となったら、ドタキャンします、すいません!」
と伝え、イベントの日を迎えた。
夕方、会場入りすると、坂本龍一さんが待っていた。
さっそく、生まれてくるだろう、子どもの話。
小学校のとき聴いて、どハマリして、人生が変わった、アーティストに
まさか、「そうなんです。生まれそうなんです」なんて
自分の子どもの出産の話をするとは思わなかった。
イベントが始まり、自分の出番や打ち合わせがないときを見て
何度も関係者口の階段を上がり、地下のイベント会場から外へと出て
ケータイで連絡する。
「生まれそうか?」「そうかまだか!」
30分ごとに、「生まれそうか、まだか」と階段上がって聞きにいくのは
なんとなく、バカみたいな、マヌケな感じもするが
赤ちゃんは「生まれるかもよー!」となったら、すぐなのである。
すぐじゃないかもしれないけど、すぐかもしれないから
すぐに駆け付けなければならないのである。
何度目か、外に出てケータイで確認をしていると
目の前を、細野さんと、幸宏さんが歩いていった。
電話を切って、会場の楽屋に降りると、YMOの3人がいた。
そう。イベントには3人が出席するのである。
わぁあああ。
もう、わけがわからない。
出産とYMOが同時にやってくるなんて、忙しすぎる。
なんというか、カツオのたたきを、何切れも同時に
ゴクゴクゴクと飲み込みたい気分だった。意味わかんないけど。
坂本さんが
「まだ大丈夫? 出番、終わったら、病院行ったほうがいいよ」
と言ってくれる。泣ける。
ほんとうにありがたいことだが
坂本さんは自分がメインである、このイベント中に
なんどもなんども「まだ?」「大丈夫?」と声をかけてくださる。
出番も打ち合わせも忙しいのに。
さすが、先輩、尊敬してます。
子どもの頃、ガツーンとやられて正解だった。
結局、その日は生まれず、イベントも終了。
しかし、その翌日は、Human Audio Spongeのライブ。
さっきまで、目の前にいた、お三方の久々のライブである。
「頼むから、今日も生まれないでー!」と心から叫んだ。
こんどは横浜が会場だから、ちょっと困るのである。
そんなこんなで、結局、生まれたのは、その3日後。
朝の8時50分。
長男も出産に立ち会う中、元気な泣き声を聞いた。
やっとこの世界にやってきたかー!
ということから、明日で1年。
むにゃむにゃした表情の、泣くことしかできない小さな赤ん坊は
いつのまにか「パパー」「ママー」と言うようになった。
人生、いろいろ起こって、あっという間である。
しかし、下の子が生まれたのは、確かに1年前という気がする。
……という話。
タクシーに、乗る回数が多いからか
面白い運ちゃんを引き当てる能力があるのか
それとも、運ちゃんは面白い人が多いのかわからないが
月に1度は、面白い運ちゃんのタクシーに遭遇する。
面白いといっても、大爆笑ネタという感じではなく
微妙なのだが、微妙であることが、タクシーという密室では
余計に面白くなってしまう。
その、「ちょっとした面白さ」が好きだ。
先日のこと。
タクシーに乗って、行き先を告げると
運ちゃんは「大丈夫ですよ!」と応えた。
大丈夫……って、別に、東京から金沢まで行ってくれとか
成田空港まで1時間以内で行ってくれとか
そういう、難しいオーダーをしたわけではない。
もしかしたら、行き先を聞き間違えられたのかと思い、再度伝えると
「大丈夫です、大丈夫」と、また「大丈夫」だ。
タクシーは、しばらく進んだ。
そろそろ左折ラインに入ったほうがよいのでは?
という場所になっても、まだ右車線を走っていたので
「そこ、左に曲がりますよね?」と尋ねると
「大丈夫、大丈夫です」と言い、そのまま信号まで
右車線で突っ込んで、大回りするように左折した。
「ピン!」ときた。
よく考えたら、この運ちゃん、僕が乗ってから
「です」を除けば、「大丈夫」しか言ってない。
もしかしたら、「大丈夫としか言えない」人なのでは?
微妙に興奮してきた。
なにに対して、興奮しているのか、自分でもよくわからないが
この、面白い空気との出会いに感謝したい。
しかし、ほんとうに、「大丈夫」しか言わないのだろうか。
試してみたい。
なにか訊いてみたい。
しかし、下手に訊いて、「大丈夫」以外の言葉が返ってきたらがっかりだ。
考える。
「1万円でお釣りありますか?」
これじゃないだろうか?
ほかにもあるかもしれないが
あまり考え込んでいると、タイミングを失ってしまう気がした。
質問を考えすぎて、「うーん、うーん」と唸って
その唸る姿を見て、運ちゃんから、「大丈夫?」ときたらベストだが
そこまでの模範解答は期待できないだろう。
ちょっと深呼吸をしてから、訊いてみる。
「1万円でお釣りありますか?」
「……大丈夫です」
うわ!
やった!
大丈夫って言った!
確かに、言った!
これで間違いない、いま僕は
ちょっとキケンな状態だ。
ワクワク度が、ぐんと増した。
とはいえ、もうそろそろ目的地。
訊くなら、あと1問だろう。
考える。
今度は、もうちょっとハードルを上げたい。
「大丈夫」が回答としては、なくはないけど
「大丈夫」と応えるのは、ちょっと、おかしな質問。
「運転手さん、名前なんていうんですか?」
いや、それはあり得ない。
それで、「大丈夫」と応えたら、ドアのロックを外して
走る車からゴロンゴロンと脱出したほうがいいかもしれない。
それになりより、僕は達成したいのだ。
「大丈夫」だけで終わらせたい。
「大丈夫」という言葉以外の言葉を聞きたくない。
「大丈夫」だけで、いちタクシー体験を終わらせたいのだ。
なんだろ?
考える。
目的地は迫る。
「大丈夫」だけで、達成したいという思いから
どうしても、簡単な質問ばかり浮かんでしまう。
ひらめいた!
「ちょっと、窓、開けてもいいですか?」
これだ!
これに対して、「大丈夫」と応えるのは、普通、ヘンだ。
だけど、ナシというわけではない。
目的地まで信号もう2つくらいの位置で
僕は、早口で訊いてみた。
なんとなく、焦った感じで、返答を急ぐ、みたいな雰囲気のほうが
思わず「大丈夫」と、言っちゃうのではないかと思ったからだ。
すると……。
「大丈夫です」
やったー!!!!
完全試合だ!
全問正解だ!
ワールドカップ出場だ!
どう考えても、おかしな運ちゃんだが
それより、「大丈夫」で終わらせたことが、嬉しくて仕方がない。
「この喜びを誰に伝えたいですか?」という
リポーターが現れて、祝福してほしいくらいだ。
……と、喜んでいると、突然……。
「その、前のところでよろしいですか?」と、いう言葉が聞こえた。
ん?
あんた、一体、いまなに言った?
えぇえええぇえええええ!!!!!
勝利は夢に終わった。
ロスタイムで失点だ。
ドーハの悲劇だ。
頭の中で、ゴンが倒れ、井原がうずくまり、ラモスが天を仰いだ。
「2060円です」と、運ちゃんは続けて言う。
もう、どうでもいいよ、もう。
1万円ではなく、千円札を3枚渡して、お釣りを受け取り、タクシーを降りた。
なにごともなかったかのように、普通に戻ってみる。
理由を探し出したり、決めつけることはできるんだけど
そういう見つけやすいものが、本質ではないように思える。
ずっとblogが書けなかった。
それについて、独り言のようなものをずっと綴っても
前向きにはならないように思えるので、このへんでやめて
なにごともなかったかのように、普通に戻ってみようとも思ったが
さっき、夜の恵比寿をずっと散歩していて
ちょっと思ったことがあったので、それだけ。
せっかく思ったんで、吸った息を吐いてみたい。
なんというか、自分がいなくなっていたのだなあと思った。
ここで言う自分というのは、非常に説明のしづらい自分なんだけど
僕は、長男の父であり、次男の父であり、夫であり、会社の代表であり
ディレクターやプランナーであり、ま、ほかにもいろいろあるんだけど
それらのどれでもない、他人が絡まないものを、ここで自分と呼んだ場合
その自分が、ここ最近は、いなくなっていたのだなあと思った。
夜の恵比寿を、一人でどうしても散歩したくなって
たまたま週末、金曜の深夜ということもあって
散歩してみたら、僕には関係のない、いろんな人たちとすれ違って
そのおかげで、よくわかった。
久しぶりに自分を取り戻したような気がした。
そのおかげか、久々に、こうやってblogも書いているし。
家庭だったり、仕事だったり、友人関係だったり
ほかにもちょっとしたことが起きたりと
誰かにとっての、自分ばかりだったのかもしれない。
このところ。
もちろん、必要とされることは有り難いことだし
基本的には、そういう時間がメインでよいわけだけど
たまたま、まったく、自分だけの自分がなかったようで
それが、もしかしたら、影響しているのかしらと思った。
blogだけではなく、ほかにもいろいろ影響してしまっていた。
このへんでやめよ。
と、そんな理由で、さっき夜の恵比寿を歩いていたんだけど
ちょうど電車も終わった時間で、坂の上の恵比寿南から
駅のほうへ歩いて、まだ戻ってきただけなんだけど
なんだか、駅前が、年末みたいな感じだった。
恵比寿の週末は、あんな、年末みたいになるのか、と驚いた。
オフィスは少し離れた、静かなところにあるもんで。
酔っぱらった女の子が道ばたで倒れていて
彼氏だか同僚がタクシーに乗せようと抱きかかえようとしているんだけど
そいつはそいつで酔っぱらっているんで
結局、ダラーンと、2人して倒れてしまって、アスファルト。
というような光景。
そんなようなのが、1組2組じゃなく、10組以上だもの。
もちろん、男同士、女同士もいるんだけど
性別を抜きにすれば、だいたい同じようなダラーン。
なんだか、平和でいいなと思った。
アホみたいな光景だけど。
平和な街だなあと思い、再び歩き出す。
駅前を折り返し、坂を上がる。
見上げると、ビルの向こうに、赤い月が見えた。
地球の上を歩いている、という感覚を強く感じる。
僕がこうやって歩いているのは
とてつもなく広い、球体の星で
その上に、ちょんと、存在して歩いている。
ビルに抱きついているサラリーマンも
タクシーを止めようとしている外人も
アスファルトにダラーンのカップルも
みんな同じ星の住人なんだな、と感じた。
みんな、いい週末だといいね。
久しぶり。